ひとりごと(2012年9月分) |
2012年9月30日(日) 「晴れたら」 お外は台風通過中。 昨日の三島公演も台風の脅威にさらされる事なく、お陰様で無事終了致しました。たくさんのお客様がいらして下さったのはとてもありがたく、また演奏中も集中して聴いて下さっているのが伺え、本当に嬉しく思いました。ありがとうございました! いつだったか数年前、この三島公演の真っ最中に上空を台風が通過した事がありました。帰りの新幹線が動かずに駅で2時間位?待ち、やっと来たノロノロ運転新幹線に、重い荷物を両肩にかけて立ったまま帰った記憶があります。数日前、2つの台風が発生した当初はまたぁ?と思いましたが、重ならなくて本当に良かった・・・。 昨日あんな事を書いたものの、思いがけずも位置決めは前代未聞にもすんなりと決まり、全曲リハーサルが出来ました。決まらない時は1曲(1編成)につきあれこれ何パターンも動かし、それで弾いてみて聴いてもらい、また位置を戻したり・・・それに思いのほか時間がかかります。しかし昨日はそれぞれの位置に関してどうのこうの、と言う事ではなく、弾き方で微調整した分が大きかったのです。毎年弾いていても当然ピアノの調子もある訳で、昨日のピアノはまた昨年弾いた時の感触とも違い、最初ピアノに触った時に今日は何に気をつけて弾いたらいいか、一瞬迷いました。毎年お世話になっている調律師さんから的確なアドバイスを頂き、耳と手がだんだん言う事をきいてくれるようになったというところでしょうか。 リハーサルでも本番でもいろいろ発見がありましたし、あんなに訳のわからなかった曲の構成(形式)についても、また一つまた一つと謎が解けていきました。そして今まで以上に「あぁ面白いな」と思えてきました。室内楽に携わっていて良いと思う事は、自分一人では決して弾かないと思うようなタイプの曲を演奏する機会に恵まれる事、そしてピアノ作品をあまり書いていない作曲家の作品を知る機会に恵まれる事。人の助けを借りなければできない訳で、毎回声をかけて下さる伊賀さん青木くんには感謝。曲が形になるところまでは結構苦しむのですが、だからこその喜びもある訳です。1週間後の東京公演までに新たな発見分を盛りこんで、再度詰め直します。 さて、今日は本当に久しぶりのオフ。台風のお陰(?)で思いがけないお休み。9月の1カ月は最初から最後まで目いっぱい走っていました。その反動か、今日は気の向くままに、ただただ時間が流れるままに任せていました。 キャベツがたくさんあるし、野菜をがっつり食べたいと思ってボルシチを煮込みました。ビーツの缶詰めの買い置きがないのが残念でしたが、ま、いぃか(ボルシチとは呼べない?)。手からニンニクや玉ねぎやセロリのミックスされたにおいがしていますが、ちょっとホッとする香りです。 そして読書。一気に1冊読み切ってしまいました。ある人について書かれた本ですが、期せずして自分が迷っている事に対して指針を示してくれる言葉が中にあり、ちょっと勇気をもらえた気がしています。そして、人と人のつながりについても考えさせられました。「積ん読」された本も実は大分あるのですが、心の余裕がないと読めなくて・・・でもこれからは少しずつでも読んでみようかな。そんな気にさせられました。 新聞は、最近1週間まとめ読みする事が殆どですが、まだこれから。ピアノも昨日まであんなにがっつりだったので、今日は結局弾けないままです。その他やりたかった事もたくさんあるのですが、それはまた次のオフに。できなかった事のノルマを消化するだけのオフにしてはアカンと思い、心と体を休ませる事にしました。 台風が去った頃に体の疲れも心のもやもやも晴れるといいのに、と思うオフの1日でした・・・。 2012年9月29日(土) 「位置決め」 本日は三島公演。マチネ(昼公演)なので調律終了後11時少し前から音出し。という訳でこれから新幹線で向かいますが、普段学校に行く時よりははるかに遅いので楽。 室内楽ではそれぞれの楽器の位置が微妙に変わるだけで、演奏もかなり変わります。自分の演奏をそうやって客席側から聴いてみたいと思うものの、当然無理!なので客席側で聴いていて下さる方や調律師さんにお尋ねするしかないのが残念です。私たちサイドからすればお互いの音が聴こえやすいか聴きにくいかで安心感が全く違い、またお互いの響きがちゃんとまとまっているか何となくバラけているかもわかります。ただそれ以上に客席側では響きがまとまっているかバラけているかが如実にわかるらしく、またその響きが1+1+1=3ではなく5にも10にも(?)なるような相乗効果が生まれるそうで、どこで弾くかが大変重要です。 「場ミリ」とか言うらしいですがその語源とか良くわからないので、一応今日のタイトルは「位置決め」としました。この過程が実際小1時間位。ヴァイオリンとピアノで、チェロとピアノで、そしてヴァイオリンとチェロとピアノという3通りを全て別々に決めるので、それ位はどうしてもかかってしまいます。それぞれの楽器は動かすもピアノは固定、と言う訳でなく、必要とあればピアノの位置も3通りに動かします。大抵いつも同じホール、そしてメンバーも同じなのに、曲が(作曲家が?)違うと位置も全然変わってくるのが面白いところ。でもこれがベストの位置に入ると、いつもよりも音がたくさんクリアに聴こえてくるとか、いつもよりもずっと楽に鳴らせるとか、普段出来ない事が出来てしまうという現象が起こる。不思議なものです。 という訳で当日のリハーサルは(時間がなくて)全曲通しができないのですが、それでもこっちの方が大事。譜めくりをお願いする学生さんには、面白いからまず客席で聴いてみてと勧めるのですが、どうやら相当面白いらしいです。 ではブリッジ、弾いてまいります。今日は富士山見えるかな・・・? 2012年9月28日(金) 「うたた寝」 あっぷあっぷの毎日…気付けば今月も終わり。しかし明日に本番を控えているのでゆっくり時間を割く訳にいかず、ちょこっとだけで失礼します。 ここまで押し迫ったところで、やっと曲が見えてきました。前回書いた事を今読み返して苦笑してしまいます。やはり演奏する本人が曲を分かっていてこそ、伝えられるものがあるという事。作曲者ブリッジが何を意図したのか、どんなアイデアを試そうとしたのか、少しずつみえてきた気がします。作曲の専門的な事まではわかりませんが、あぁ面白いな、と思えるようになりました。3曲3様でアンサンブル的に相当複雑な事には変わりはないですが、弾く方の都合は聴かれる方には関係ない事なので。 その作品(曲)がどのように聴こえるか、それは演奏者の責任が大きいと思っています。作品が出来上がって紙の上に書かれた状態(楽譜)でも、頭の中で音を鳴らしてみてあぁこんな曲なんだな、と思う事はできる。だけど、頭の中で漠然と音が鳴るのと、演奏者の心意気や楽器、ホール、そして聴き手の方の力をお借りし、いい緊張感の中で音楽になるのとは全然違います。さまざまな要因でいろいろな演奏になる可能性があり、また一瞬で消えてしまうものだからこそ、だからこそ責任を持って心して演奏し、いい作品だなと思って頂けるようにしたい。そんな事を考えながら演奏しています。 いつもだとその時弾いている曲が始終頭の中で鳴るものですが、今回ブリッジが鳴りだしたのはごく最近です。つまり自分の中に音楽が浸透するまで相当時間がかかったという事。電車の中でうと・・・とした時、ずっとブリッジ和音(ブリッジ特有の和音を勝手にそう名付けている)が鳴りやまず、頭は起きているんだか寝ているんだか。 涼しくなってやっと湯船に浸かれるようになりましたが、ぼぉっと温まっている内に一瞬居眠りをしたらしく、おかしな夢を見ました。ブリッジのチェロ・ソナタをどう弾くか、どう解釈するか、そして登場人物はヴァイオリンの高校生3人(全く初めての3人でしたが)と私。1楽章の冒頭は4分の4拍子、ピアノ・パートは常に8分音符で流れるように書かれていて、それに対してチェロ・パートは2拍3連(符)で伸びやかに歌われる旋律なのですが、これを音楽的に演奏するにはどうしたらいいか、カンカンガクガクの議論を繰り広げています。大体、チェロ・ソナタなのになぜヴァイオリンの高校生なのか?というのが可笑しい。でも目覚めて、あぁこれが今自分自身どうしようと悩んでいた事なのかと気付きました。そしてこれを高校の初見の授業で教材に使って、3対4のリズムをアンサンブルでどう考えて演奏すればよいか、またそれをいかにも3対4をきちんと割りました風でなく大きなフレーズで捉えるには何に気をつけたらいいか、そんな事をやってみても面白いかも、とか考えていた事にも気付きました。 夢って思っている事がそのまま表れるものなのでしょうか。面白いものです・・・。 2012年9月23日(日) 「ブリッジ」 秋が突然やってきました・・・。 あんなに暑かったのにどうしてこんなに急にやってくるのだか。あれだけ蒸し暑さに閉口していても、やはり急にいなくなると寂しくなったりするものです。 それはともかくと、またもやのご無沙汰でした。ごめんなさい。今月に入っていきなり新学期となり、それについてゆけぬまま無我夢中で過ごしてきました。6時過ぎに起きて7時に出るのも久しぶり、帰るのが22時過ぎて遅い夕飯が連日続くのも久しぶり。そんな中、学校の仕事のほかにお初のさらうべき曲が多く、体調も仕事にも支障が出ないようにするのが精いっぱいでした。 さて、先週末に立てつづけにいくつかの本番が終わってちょっとばかりホッとしていたら、ブリッジの本番も迫ってきている事に気付きました。 毎年作曲家1人に焦点をあて、ヴァイオリン・ソナタとチェロ・ソナタとピアノ・トリオというプログラムで演奏会をしている伊賀さん青木くん。今年のテーマは、なんとブリッジ。その名前をお聞きになった事がないという方も多いかもしれません。イギリスの作曲家で、年代的に言うとドビュッシーより10数年後、バルトークとほぼ同じ頃の生まれです。チェロ・ソナタは比較的良く演奏され、私も遠い昔にFMのイギリスの作曲家特集で聴き、「初めて聴く作曲家だけど、でもなかなかいい曲」と思ったのを覚えています。が、「今年の演奏会はブリッジで」と聞いた時、実はかなり動揺しました。 1曲だけならそう思わなかったはずですが・・・「ブリッジ」は今まで全く弾いた事がありませんでした。つまり1晩分(約90分)の曲を丸ごと譜読みから始め、そして合わせ、1カ月で舞台にのせられるまでに仕上げなくては、と思ったのです。おまけに作曲家についての知識もなければ、曲もどれも聴いた事がないに等しく(1度聴いただけで覚えていない)、当然楽譜も見た事がないのです。後日届いた楽譜を見た時はぎょっとしました。 結論から言ってしまいますと、ブリッジは本当に不思議な作曲家です。チェロ・ソナタは雄大に歌われる作品でロマン派の香りがしますが、ハーモニーの移り変わりにはブリッジ特有の色合いが表れています。ヴァイオリン・ソナタは世紀末の音楽に近づき、表現や感情の起伏がより大胆になっています。形式も全体で1つの楽章、最初はどういう形式かが全く分かりませんでした。そう簡単に謎解きできないように1つの旋律が手を変え品を変え、また配置も変えて現れ、弾くにつれて少しずつみえてきています。手が込んでいてその巧みさにつくづく感心してしまいます。ピアノ・トリオ第2番は何といいますか・・・感情と少し切り離したところに音楽があるような、抽象的な音楽に思えます。ボキャブラリーも表現力もなくてうまく伝えられないのがもどかしいのですが、正に3曲3様。ネットで調べていたら、作風があまりにもいろいろ変わるので「カメレオン」なんて呼ばれているらしい。それも良くわかります。 何の先入観もなく同時進行で3曲始めて、行きつ戻りつしながら少しずつ曲に近づこうとしている真っ最中。いつもながら、1人の作曲家の作品数曲にまとめて取り組む事によってわかる事が多く、とても面白いです。面白いと言いつつも実は、弾けるようになるまで、お互い合うように1つの音楽に出来るようになるまで、自分の中で解釈が固まってくるまで、本番に向かえる状態になるまで、そんな風にいくつもの関門があります。まだ舞台にのせた事のない曲で本番を迎えるまで、それらの関門をクリアするのに本当にたくさんの時間が必要で、また練習や合わせや下調べなどたくさんする事があり・・・見えてくるまでは本当にキツイ。毎年それは三島公演の当日まで続きます。直前リハーサルでもどうも確信が持てなくて、本番が終わってやっと分かる事があり、またその時に初めて「弾けて良かったぁ」と思えます。 ふと思った事。ちょっとマニアックな話になりますが・・・ブリッジを弾いていて「何かに似ている、昔弾いた何かに」。そんな記憶がよぎりました。一生懸命考えていて思い出したのが、クラークのヴィオラ・ソナタ。やはりブリッジと年代の近いイギリスの女流作曲家、ヴィオラでは割に良く弾かれる作品です。ハーモニーと言い、曲全体が醸し出している雰囲気と言い、もしかしたら好んで使われるリズムも?似ている気がします。そう言えばブリッジはヴィオラ奏者でもありました。ヴィオラと言えば、ヴィオラ・コンチェルトでやはり良く演奏されるウォルトン、彼もイギリス出身だったなぁとか、ブリッジの弟子のブリテンもヴィオラのためにラクリメと言う作品を書いていたなぁとか。どことなく作風に影響があるように感じるのは気のせいでしょうか。 伊賀さんとも、「どうして年々合わせも仕上げるのも大変になってゆくんだろう?」ってお互い笑っちゃいました。毎年続いているこのシリーズも今年で12回目、つまり12人の作曲家の作品にがっつり取り組んできたのですが、ベートーヴェンとかブラームスとか演奏機会も耳にする機会も多い曲が楽、と言う訳では決してありません。でもその作曲家の他の作品を演奏した事があるとか、予備知識があるとか、そういう事がどれ位大切かと思い知らされた気がしています。 それにしても合わせ的に難しいのはなぜか?普通の3連符、2拍3連、4拍3連が混在し、それらと8分音符や16分音符が同時に絡むのが当たり前という・・・両手それぞれ違うリズムを、また片手の中で2つの声部で3連符と8分音符を両立させ、また相手の音を聴きながら、決して惑わされずに一定のテンポを保つ、これが難しさの原因かと。道理で、耳と目と頭がフル回転する訳です。 そういう事を抜きにして、いい曲だな面白い作品だなと思って頂けるようになれれば。そこまであと一息。チェロ・ソナタはチェロでなくては奏でられない歌に満ち、好きな作品です。ヴァイオリン・ソナタのエネルギッシュで情熱に溢れる音楽も魅力的。トリオは全く別の音楽、本当に同じ作曲家の作品なのかと思われても不思議ではありません。なかなかまとめて聴く機会がない作曲家ですが、チェロ・ソナタを始めとしてぜひ聴いて知って頂きたいと思います。9月29日は三島、10月6日は東京、お時間がありましたらぜひいらして下さい。 11月の所沢でのリサイタルの情報も「コンサート情報」にアップしたのでご覧下さい。これについてはまた次回以降に。 急に涼しくなりましたので、皆様も体調にはお気をつけて・・・。 |
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