ひとりごと(2012年10月分)

2012年10月31日(水)            「2012年所沢のプログラム」

間際に迫ってきた所沢のリサイタル、今更ですがこのプログラムについて少し書いてみます。

主催される「松井クラシックのつどい」さん、こちらで弾かせて頂くのはソロでは3回目となります。お客様の雰囲気がとてもあたたかく、ボランティアでやって下さっているスタッフの皆さんのさまざまなお心遣いもとても嬉しく、いつも気持ちよく弾かせて頂いています。プログラムも全く自由に組ませて頂けるのですが、今回はいろいろ考えて、まずは初夏のリサイタルで演奏した平均律2巻から数曲を。当時練習していた時から思っていたのは、2巻の曲はどれもが充実した内容を持っているのでまとめて弾くのはもったいなく、1曲1曲を深く味わいながら勉強したいし、また聴いて頂きたいという事。それと時として難解とも思われがちな平均律(先入観なく聴いて頂けば純粋に素晴らしい音楽だと私は思っていますが・・・)、トーク付きのコンサートなので演奏する立場としてはどんな事を考えているか、そんな事もちょこっとお話しできればもう少し親しみを感じて聴いて頂けるかもしれない。そんな風に考えました。

バッハに組ませられるもので次に弾きたいものを考えたら、ブラームスのソナタ第3番が思い浮かびました。ブラームスと言えば室内楽も、後期のピアノ曲の珠玉の小曲の数々も大好きですが、このソナタにはブラームス若かりし頃のロマンと情熱が溢れていて、初期作品にも関わらず傑作だと思っています。これは大曲なので後半はこれ1曲。前半は全てバッハだけにしてしまうか、それともこの2人をつなげる別の作曲家をもう1人考えるか・・・?ときたら、ドイツ3大Bでいってみようか。そんなアイデアが浮かびました。

ドイツ3大Bというのはドイツ人作曲家の御三家ともいうべきJ.S.バッハ、ベートーヴェン、ブラームスをさします。バッハは自分にとって原点ともいうべき作曲家、ブラームスは大好きな作曲家、でもベートーヴェンは私にとっては(偉大すぎて)恐れ多い作曲家で、この3人でプログラムを組もうとは考えた事もありませんでした。でも震災を経て価値観も変わってきたのか、今回チャレンジしてみようかという気になったのです。

とは言えベートーヴェンの何を入れるか?は難しい選択でした。何故かと言えば、ブラームスのソナタの前にベートーヴェンのソナタではソナタ続きで重いかと思い・・・ま、そうでなくともソナタはある程度の長さがあるので、そしたら平均律は2曲位しか弾けない事になり、そしたら平均律の魅力を味わって頂くと言うよりベートーヴェンの前座みたいな扱いになってしまう。それは本来の趣旨と違うので、ベートーヴェンの変奏曲か小曲から何かをと考えて、結局創作主題による6つの変奏曲を選びました。この曲は変奏曲の中でも、1つ1つの変奏ごとに調性や拍子を変えるという言わば掟破り、というと言い過ぎですが、ベートーヴェンが変奏曲形式に新たな息吹を吹き込んだ画期的なアイデアによる作品なのです。

これで3人の作曲家それぞれに違う形式の曲を選ぶ事が出来、形式面でもバラエティに富んだものになったかと・・・。以上が今回のプログラムを決めた経緯です。というところで何をお話しするかも考えなくてはなりませんが、お話ししたい事は山ほどあります。でも「トークが長い」と、デュオを組んでいる原田さんにはコンサートでも授業でも(!)いつも言われているので、何を話すか吟味して考えておかないと・・・。

思っている事を過不足なく的確にお伝えするのはなかなか難しい事です。本来なら演奏で全てお伝えすべきかもしれませんが、でもトークや文章で表現する場が与えられているなら、そこでも出来る限りきちんとお伝えしたい。いつもそう思ってこれも書いています。

そうそう、この「松井クラシックつどい」さんのコンサートでは、演奏後に懇親会といいますか、聴衆の皆様を前にして15分ほど、質疑応答の時間があります。これがまたどんな質問が飛んでくるのか分からず、演奏直後なので頭の中が大抵真っ白になっている事もあり、実はびくびくしながら座っているのです(話すのがあまり得意でないのもあり・・・!?)。でも自分が聴く立場だったら楽しみかなとも思う、そんなひとときが用意されています。

という訳で11月10日、秋の午後のひととき、ドイツ3大Bをお聴きに所沢にぜひいらして下さい(詳細はコンサート情報のページへ)。どうぞよろしくお願い致します。

あと1週間ちょい、どこまでできるか時間との勝負・・・。



2012年10月29日(月)            「月下美人」

今日は気持ちのよい秋晴れ!乾いた風がいくらか強く吹いていましたが、日射しがほどよく暖かく、どちらも肌に心地よく感じました。

来月頭のリサイタルに向けて少しずつ調整し、お仕事はほぼ学校の仕事だけになったところ。あと10日とちょっと。気になる事があると勉強(練習)に身が入らないタチなのに、勉強したい事が芋づる式に増えてゆき、時間はいくらでもほしい。「レッスンで聴いているあの曲、疑問点出てきたから楽譜いろいろ見比べてみよう」とか、「今さらっているこの曲、大分固まってきたのでちょっと音源聴いてみよう」とか。キリがなくて困るのですが、芋づる式に連なって見えてくる事は意外と多い。それに心が落ち着き頭が冴えてくると、アイデアもイメージもふわふわと浮かんでくるんだなと実感しています。

五感を研ぎ澄ませ、そこから得られるものが音のイメージを作り出しています。そう言えば最近街中でイヤホンやヘッドホンをしている人が多いような・・・?自分自身外で何かを聴く習慣がないので逆に驚きました。街中であってもいろいろな音が聞こえます。蝉や虫の音、鳥のさえずり、風の音、葉がこすれ合う音、人の足音、ネコの鈴の音、風に乗ってかすかにきこえる遠くの駅の発車ベル・・・所詮街に溢れる雑多な音かもしれないけれど、それでも耳を自然な状態にして聞くのが好きなのかもしれません。1日音楽の中に居ると耳が疲れてしまうので、家では極力耳は休ませています。本当は自然の中で聞く音の方がずっとずっといいのだけど。

やっと少し心に余裕が生まれたので、この秋初めての焼きりんごを作り、夏に買ってきたネギの球根を植えました。植えてもいないのに水気もないのに、緑の瑞々しい芽が出て1週間以上。強い生命力だなと感心しつつ植える余裕がなくてそのままにしていましたが、今日球根を触ってみたらあんなにかちかちだったのにしなしな。球根内の水分を使い尽くしてしまったかのようで、悪いことをしてしまいました。丁寧に植えてたっぷりお水をあげ、カラスに狙われないように少し葉陰になるところに置きました。

そうそう、数日前の晩の事。くたれて帰ってきたら、ご近所さんにある背の高いサボテンに大きな美しい白い花が咲いているのを見つけました。あぁこれが噂の月下美人?鼻を近づけたら、何とも言えないかぐわしい香りがしました。確か一晩だけで閉じてしまうとか。開花したところに偶然出会えてちょっと幸せな気分・・・。



2012年10月27日(土)            「8周年!」

前回書いた翌日は少し暖かくなり、一気にキンモクセイが花開いて街中が香りでいっぱいになりました。

所沢のリサイタルまで半月。とは言え、相変わらずの日常が続いております。進路変更を決めた学生さんや、ちょっとした壁を正に今突破しようとしている学生さんにがっつり向き合い、学生さんの演奏の審査もありました。さらおうと思って空けた貴重な1日、疲れがどどぉんと出てやる気が起きず、結局寝ていました。あれだけこんこんこんこんと眠れたところを見ると、今までが不眠症?だったかも。お近くや沿線に住んでいらっしゃる友人知人にご案内を送りたいと思いつつ、全く出来ず・・・。でもやっと疲れがリセットされました。

ひとりごともそろそろ月末が近づいて来ていますが、焦らないよう少しずつ書いて行きます。

先月の事になってしまいましたが、今更ながらのご報告。いつもの原田さんとのデュオ、郡山で演奏させて頂きました。聴いて下さったのは小学生から高校生の子供さん達、そして私たちにとって大切な方々も。思いがけないめぐり合わせのようで、でもあの日に弾かせて頂いた事は必然だったような気がしましたし、また子供さん達とは音楽の優しさや力強さを一緒に感じあえた(ような気がした)ひとときでした。そもそもこのデュオの東京デビューの日に震災が起こった事が、音楽や演奏について改めて考え、また自分たちに出来る事を今もって探し続け、小さな一歩一歩さながらの活動を続けていければ、と思うきっかけとなったのでした。

子供の頃にも、そして10年ほど前にも福島を訪れた事があります。第一印象は自然の豊かな美しいところ。今回も猪苗代湖に連れて来て頂きました。見た目にはあの頃と雄大な風景はちっとも変わらなかったのですが、昔とは違うと思うと心がとても苦しくなりました・・・。考える事はたくさんあって、それを言葉にするのはとても難しいのですが・・・どんな時も心の中にその想いがあります。

そういえば前回書いた10月15日がこのサイト8周年!全く忘れていました。1年1年加速しながら時が進んで行く事にただただ驚かされ、その割には出来る事に限りがあると悲しくなりますが、今後も細々と出来事や考えた事を書きとめてゆくつもりです。よろしくお願い致します。

この2週間ほどで一気に秋が進みました。この調子だと冬ももうすぐでしょうね・・・。



2012年10月15日(月)            「位置決めその後」

またもや半月のご無沙汰でした。汗ばむ日もまだあると思っていたら朝晩寒くなってきて、あっという間に真秋(って?)の様相です。しかし今年はキンモクセイが絶不調。街中がキンモクセイの香りでいっぱいになるあの数日間を毎年楽しみにしているというのに、今年は一体何なんでしょうか?地球のご機嫌もさることながら、自然のサイクルが狂ってゆく事も心配です・・・。

さて、ブリッジの東京公演もお陰様で無事終わりました。東京でもたくさんのお客様が来て下さり、こちらでもまた皆様しっかり集中して聴いて下さり、本当に心強く、また嬉しい一夜でした。本当にありがとうございました。

この日は静岡公演とは打って変わって、位置決めにかなり時間を使いました。舞台で演奏していて聴こえる響きと客席側で聴こえる響きが違うらしいので、ここで演奏する際は毎回位置をあぁだのこうだのと変えて比較し、それで一か八か位の気持ちで決めます。お客様がお入りになるとまた微妙に響きは変わりますが、調律師さんにも聴いて頂いてそれだけ凝って決めた場所に裏切られる事はなく、本番ではお互いよく聴こえ、安心して弾く事ができます。

もう1週間ちょっと経ってしまったので少し記憶は薄れてきていますが、この日は改めて新鮮な気持ちで弾こうと思ったのを覚えています。その時聴こえる音をしっかり聴くのはもちろんの事、楽譜をしっかり見ながら、全体の響きの中で自分が弾いている音がどういう位置づけなのか、意識して弾きました。例えば、ここは和音で弦のメロディーをしっかり支える役目とか、ここではいいテンポを作り、全体の軽さを表現出来るような刻みを続ける役目とか、ここではピアノがメロディーなので音色も華やかに、そして全体を引っ張っていく役目もあるとか、そのような事を考えました。そして曲の形式についても更に謎が解けましたし、つくづくブリッジはカメレオン作曲家だなと実感。あまりにも作風が曲によって違うのでそう呼ばれていたとかいないとか。それはともかく、静岡公演よりも更にがっつり組め、室内楽の面白さを感じつつ演奏出来たような気がしています。

ブリッジ、最初は???でしたが、続けていく内に面白さも難しさも分かってきました。終わってみて、他の作曲家に比べて本当に合わせが大変だったと思うのですが、初めての人とか数回しか一緒に組んでいない人だったらきっと出来なかったはず。毎年1回、12人の作曲家、つまりこのシリーズだけでも12年の歴史があり、その結果出来た事だと思います。歴史を超えたいと思ったら時間を積み重ねるしかない訳で、長年続けてきた事にはそれ相応の意味があると思うのですが、それにしても12年はあっという間。全く実感がありませんが、お陰様で今回も無事終える事ができました。お世話になった方々、いらして下さった皆様、本当にありがとうございました。

これが終わって11月の所沢のリサイタルの方にシフトするはずでしたが、いろいろな事があってまだ出来ずにいます。夏から引き続き、落ち着ける時間がなかったが故に、たまったままのやるべき事を少しずつ片付けている真っ最中。学生さん達と話して考えさせられる事も最近たくさん有りました。でも一番大きいのは自分自身無理ができなくなっている事。今まで睡眠を削ってその分でこなせていたのが、最近は疲れて寝てしまう事も多く、その分使える時間が激減しています。夏の疲れが出ているのか、それとももう無理はきかなくなってきたのか、まぁどっちでもいいのですが、時間の使い方を大きく変えないといけないのかもしれないと思う今日この頃です。

先日ふと空を見上げたら、大空一面にもこもことしたヒツジ雲(うろこ雲?)。あまりに綺麗だったので写真に撮りました。乾いた風に葉がカサカサと音を立てるようになりました。いよいよ秋ですね・・・。


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