ひとりごと(2010年11月分)

2010年11月30日(火)            「矢の如し」

・・・ここまで連続更新出来るならもっとコンスタントに書けばいいのに。と我ながら思いつつ、相当無理しての連続更新です。不言実行ならぬ有言実行がモットーなので。しかし11月は30日までというのを忘れていた・・・。

今学校は冬の音楽祭期間で、大学は授業無し。補講は出来るので学校に行っていますが、平日昼間は閑散として学内は静かです。高校はレッスンも授業も通常通りなので、相変わらずにぎやか。いつもの事ながら、高校生の半端ないエネルギーに負けられないと、こちらもテンションをあげて授業に向かいます。

学年によってのカラーも違い、また専攻楽器によっての違いもあるけれど、今初見の授業を持っている弦のクラスはすさまじい程に元気。皆それぞれに思う事や質問があり、まるで矢の中を走っているかの如く降りかかってくる。それをよける事無く多声聴音のように(!)聴き分け、1つずつ順番に答える。ゆっくり考える暇なく瞬時に切り返さなければならないけれど、一体何がわからないか、何を知りたいかが的確に発せられるので、こちらも(準備した教材を変更してでも)今しておくべき事ができる。スリルのある授業です。弦の伴奏助手を務めさせて頂いた時からの貯金、どんな事を知っておいてほしいか、それがちょっとばかり生かせているような気がします。

同じく初見の授業、もう1つはピアノのクラス。こちらは物静かだけど、皆まじめに根気よく取り組んでくれています。自分がピアノを弾いていて体験しておくべきと思える事、それをちょこちょことやっています。ピアノだけ弾いていると世界が狭くなりがちだけど、音楽は基本的に人と一緒に奏でるもの。それを経験するために楽譜の読みこなしは速く楽な方がよいので、それを訓練する訳です。そしてピアノの楽譜は音が多い。これを全部ピアノの音に当てはめるのではなく、もっと想像力を持って味わって読んでほしいと思うのです。列車の時刻表からいろいろな旅が想像できるように、音を鳴らさなくても楽譜から音楽が想像できる。それが楽譜を読む楽しさだと。

考えてみれば、副科ピアノのレッスンも同じような事を目指してしているかもしれません。弾けないよりは弾けるようになった方が楽しいから、当然弾けるためのコツは伝授しますが、普段お目にかかるパート譜より音の多いピアノの楽譜をいかに読むか。人と一緒に奏でる事が常ならば、逆に1人で音楽やハーモニーを作り上げる事の面白さを知ったら、また別の世界が広がると思うので。

それにしても・・・学内の紅葉が今、実に見事です。美しい樹のベスト3を勝手に作って、日々見に行っています。しかし自然の美しさにはかなわない。あの絶妙なグラデーションも色の深さも・・・。



2010年11月29日(月)            「小麦大臣」

穏やかな小春日和が続きます。

昨日の演奏会、三島の皆様にたくさんいらして頂き、ありがとうございました。個人的には、大好きなリヒャルト・シュトラウスの室内楽を一晩(マチネなので一昼?)で弾き切るという、なんとももったいない時間を過ごさせて頂いた、そんな演奏会でした。練習や合わせが例年より大変だったような気もするし、昨日1日の時間の流れが恐ろしく速くてあっという間に終わってしまった気もするし、そう考えれば不思議な時間を過ごしたような気もします。

本番の真っ最中にもいろいろな発見がありました。転調やハーモニーの移り変わりを改めて深く味わって演奏出来ました。なぜこんなにこのヴァイオリン・ソナタが好きなのかを最近考えていたのですが(普通は理屈抜きだから)、それはハーモニーの移り変わりの美しさであったり雄大さであったりはかなさであるのかと思ったのです。多少強引なところもないとは言えないけれどそこが魅力。そして、これ位好きでどこかしら似ている曲があったけど?と思って考えたら、あ!ラフマニノフ。ラフマニノフにももちろんいろいろな曲がありますが、その中のどれだったかハーモニーの移り変わり(リヒャルトとは違う持って行き方ですが)がたまらないと思った曲があったはず・・・。

今週末にもう1回あるので、それが終わってからリヒャルト公演についてはまとめようと思います。

そうそう、昨年だったかその前だったか「年1回のこの公演の折、三島に行っても富士山が見えたためしがない」と書いた気がしますが、今回ばっちりお姿が拝めました。過去10回で今回が2回目位。近年は見えても裾がわずかに見える位だったので、本当に久しぶり。晴れているような雲がうすくかかっているような判断のつきかねる、これまた幻想的な風景。そして冬仕様の雪化粧。

そして帰り、まっすぐ駅へ向かうべきところ、重い荷物を担いだまま駅の真反対の入口までてくてく歩きました。自称小麦大臣、美味しいパン屋さんがあればどこまでも(?)。でもちなみに朝はご飯党。改札の中からでも小さな窓口があってそこから買えるので、いつもホールへ向かう前にクロワッサンを1つ買って楽屋でかじっていました。美味しいなと思っていましたが、後で調べて分かった事に、案の定そこは美味しくて評判のお店。あっちの入口から入ればいろいろな種類が買えると思ったら、行くしかないと思ったのです。夕闇押し迫る時刻だったので残り少なくなっていましたが、やはり美味しかった・・・いいお土産となりました。

実は本番前夜というか既に当日、すごい時刻までさらっていたので、起きるのもぎりぎりなら荷物の準備もぎりぎり。朝は食べずに出かけました。本番前は基本的に殆ど食べないのですが、ずっと起きていて珍しく胃が空っぽ、これではとても夜まで持たない。という訳で東京駅構内のとあるパン屋さんに直行。いつものお気に入りはなかったけれど、焼きたてのクロックムッシュとドライフルーツやナッツの入ったハードタイプのパンを買いました。1つおやつに残しておくつもりがあまりにも美味しくて完食。本番前は殆ど食べないという決まりを覆すなんて恐るべし。

・・・という伏線があったからこそ、帰りに寄ろうと思ったのでしょうか。演奏中にずっと考えていた訳ではないのであしからず。でも小麦大臣かも・・・。



2010年11月27日(土)            「本番前日」

いつしかさざんかも咲き始め、紅葉の美しい季節となりました。又もや半月ご無沙汰してしまってごめんなさい。気付くとあと数日で12月。ちっとも寒くならないので実感が全く湧かないのですが、もう今年も終わってしまう?いやいや・・・その前に明日本番でした。

本番の前日と言えば理想は練習あっさり、とにかく気分的にゆったりと過ごせる事。でも残念ながらそうはいかないのが辛いところ。毎日留守なのでさすがに今日位は家に居られるようにしましたが、レッスンをし、家の雑用をコマコマと片付け、本番前にと広いところをお借りしたリハーサルの録音を聴き、練習も一通りし、決めたものの未だ出せずじまいのドレスを引っ張り出し・・・あ、ひとりごと今月まだ1回しか更新していないっ。これら全部を済ませるためには時間が必要、したがって就寝時間もいつも通り・・・。

毎年1人の作曲家をテーマに掲げての室内楽演奏会をしている伊賀さん青木くんですが、今年はリヒャルト・シュトラウス。10回目なので今年で10人目の作曲家と相成ります。例年、ヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタ、ピアノ・トリオと3曲弾いてみれば、何となくその作曲家の特徴が見えてくる気がします。ピアノ曲でおなじみの作曲家は更に理解が深まるし、室内楽からピアノ曲へとアプローチできるようになる作曲家もいるもの。もちろんたかだか3曲だけで推し量ってはいけないけれど、何か見えてくるものを探し当てられるかどうかは本当に大事。今回の3曲はどれもが若かりし頃の作品ゆえに、みえてくるものがリヒャルトの特徴とは言いきれないけれど、「豊かな歌心に溢れている」、しかし「弾きにくい」、これは共通しています。意外にも一番弾きにくいのは14歳の頃に書かれたピアノ・トリオ。普通ならこう行く・・・と思えるところになかなか行ってくれない音運びやハーモニーに泣かされるのですが、それがわずか数年経つだけであれだけたくさんの音を巧みに操れるようになるなんて。それ位16〜19歳頃のチェロ・ソナタ、23歳頃のヴァイオリン・ソナタと異なります。

文章を書いていると眠くなるし、こっちをまともにまとめようとして練習できなくなったら本末転倒なので、この辺でやめておきます。明日は三島で、12月5日は東京で、よろしかったらぜひお出かけ下さい。

このバタバタな中、先日ジェノベーゼ・ソースを作りました。寒くなってきてバジルの葉がまた鳥(スズメ?)の餌食になり、また寒さで葉がどんどん落ちてきているので、思い切って作ってしまいました。収穫はいつもの年の3分の1程度でしたが、葉が少ない方が断然作りやすいという事がわかったのが収穫?観葉植物も家にとりこんだし、冬支度はばっちり・・・。



2010年11月13日(土)            「しなやかさ」

いつしか空は澄み渡るようになり、学校では木々が日一日と赤く色づいていきます。冬の訪れも近いのを感じる今日この頃。

またしばらくご無沙汰してしまってごめんなさい。リヒャルトの合わせも始まり、その大変さに振り回されています。それでもかまわない程大好きなリヒャルトのヴァイオリン・ソナタの魅力は、一言でどうにかまとめると「熱い」ところでしょうか。「濃い」と言ってもいいかも。ハーモニーの移り変わりがたまらない。そしてダイナミックなところも繊細なところもあって、まさに美味しいところづくめ。そして書法が複雑なので謎解きの面白さがあります。ただ、これだけ盛りだくさんだと楽譜は音符で真っ黒。整理して弾かないと逆に単調な演奏になってしまうのです。という訳でお初のチェロ・ソナタとトリオ2番は始めから試行錯誤。それにしても・・・リヒャルト・シュトラウスって早熟の天才だったのですね。ちなみに今回演奏するヴァイオリン・ソナタ(作品18)は23歳、チェロソナタ(作品6)は16〜19歳、トリオ2番に至っては14歳の時に書かれたそうです・・・。

最近いろいろ演奏会に行って思った事。しなやかさと頑丈さを併せ持たなければならない、と。表現でももちろんですが、テクニックの点において。指がしっかり止まるならクリアな音、でもやわらかい音を出したい時にはあえてやわらかく使う。指のみならず、しなやかな腕や体の使い方を分かってもらうにはどう伝えたらいいか、いつも悩むのです。弦楽器の弓を扱う右手を見ながら、あの動きってどうやってさらうのだろう?と思います。でも確実に言えるのは、無駄な力が入らないからこそしなやかな動きが出来るのであり、自在に動かせるからこそいろいろな音色が作れる。スポーツ選手の美しいフォームもとても参考になります。

日が落ちるのも早くなり、夜がその分長くなりました。夜と言えば集中時。どうせならもっともっと夜が長くなればいいのに、と思いつつ朝になります・・・。


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