ひとりごと(2006年10月分)

2006年10月31日(火)       「わくわくどきどき」

今日で10月も終わり。明日にはもう年賀葉書が売り出されるそうです・・・。

一昨日の富田さんのリサイタルも無事に終わりました。いらして下さった皆様へ、ありがとうございました。当日、天気予報では雨がぱらつくはずだったのに、何と午前中からしっかり晴れました(本番というと何故か天気予報を裏切って晴れる事が多い気がする)。これに関しては書きたい事が頭の中でまだまとまっていない事もあり、後日にまた書かせて下さい。

終わった翌日はゆっくりできればよいのですが、昨日は学生さんの小さな本番にお付き合いしてきました。重なる時(正確には「近づく時」)はいくつも重なるもので、自分の都合の良いように間隔が空くものではないのです。でも考えてみれば贅沢な事。学生の頃はコンクールであれコンサートであれ、本番は自分で探すなりセッティングしなくてはならなかったから。あの時は何か1つ本番が近づいて来る度に、わくわくどきどきしていたような気がします(但し自分の実技試験を除く)。

わくわくどきどきつながりで思い出した事。「初見」。今日朝一の授業は高校のリーディング(初見)の授業からで、今日は何をやろうかな〜と楽譜を何冊もひっくり返して、本日のお題(?)を探していたところでした。

初見がわくわくどきどきするのは何故?やっぱり未知の世界の扉を開けられる事に尽きるでしょう。いつだったか、子供の頃から家中の本を手当たり次第に読んでいた話を書きましたが、楽譜も同様。家業が音楽なので楽譜はいろいろあり、何かで耳にした「あの素敵な曲」、「今度コンサートで聴く予定になっているこの曲」などなど、何でも手当たり次第に音にしていました。レッスンでは絶対に「まだ100年早い」と言われそうな曲も家でこっそり弾いていたり・・・。実はその時覚えた音が今相当役に立っています。時々音を読み間違えていたり凄まじい指使いで弾いていたり(子供のご愛嬌・・・)、それらを直す一手間は必要だけど。

今これを書きながら、高校受験の前から初見のレッスンでずっとお世話になっていた先生の事を思い出していました。太陽のように明るく、そしてお心の温かい素敵な先生でした・・・。

前々から初見の授業の事を書こうと思いつつ書けずじまいですが、その先生の思い出も含めていつかきっと書かせて頂きたいと思っています。今私が「初見って面白いっ」て思ってもらいたくて授業をしているのは、その先生の影響であり、お陰でもあります。毎回レッスンに通うのが本当に楽しみでした。

うぅぅ、しかし今日は寝不足・・・。




2006年10月28日(土)       「内部奏法」

昨日はホールを借りてのリハーサル、今日は「前日」なので強引に空けました。しっかり睡眠を取り、リハーサルの録音を聴き、ゆっくりさらい、食べたいと思えるものを何か作ろうと思ったのですが、日頃は遅くてどこにも寄れず一直線に帰宅するので、用事があって出かけざるを得なかったのです。しかも今日も充分な睡眠が取れなくて・・・。

前回書けなかったのですが、今回の富田さんのプログラムの私の印象は、「チェロのさまざまな可能性を一晩に盛り込んだプログラム」。無伴奏あり、デュオあり、トリオあり。そしてエキセントリックなルトスワフスキ、静謐な美しさと確信に満ちたメシアン、しなやか且つ力強さもある武満、民俗的なコダーイ、そしてクラシカルなシューベルト・・・。全く違った個性をもつ作品たちですが、時代を遡る順番(微妙に入れ違っていたりもしますが)に並べられていて、続けて演奏してみるとなぜか不思議なつながりを感じ、そして妙に納得するのです。

ただ正直言わせて頂くと、私個人の気持ちとしてはちょっと怖い・・・。というのは、武満作品には内部奏法があるので。簡単に説明しますと、ピアノの中に手を入れて弦をはじいたり、その他・・・後はいらして頂いてからのお楽しみ。面白い響きがします。現代ものを演奏し慣れている方には何と言うこともないのでしょうが、私にとっては普段あまり出会わない弾き方なので、「ドレスは動きやすいものにしなきゃ」とか、「ピアノの中を見ていたら楽譜も手元(鍵盤)も見えないし」とか、心配事が増えるのです(これと作品の素晴らしさや演奏の良し悪しは何の関係もないけれど)。

私自身のリサイタルは、弾きたいもの、興味の湧いたものを中心に選曲していますが、それだけだったらきっと視野が狭くなっていたと思うのです。室内楽や伴奏は、ピアノ曲を殆ど書いていない作曲家を知るチャンス。例えばリヒャルト・シュトラウス。学生時代、数人の声楽の友人のレッスンによくお供し、また歌曲伴奏法の授業も取っており、そこでリヒャルト・シュトラウスの歌曲の虜になりました。オーケストラ作品とは違って本当に繊細、ハーモニーの色合いの美しさは類をみません。彼の遺したヴァイオリン・ソナタは、弦楽器のデュオ・ソナタの中でも最も難しいピアノ・パートだと、どなたもおっしゃる程の難曲(アンサンブル的にもかなり大変)。その後、弦の伴奏助手時代にはこれにじっくり取り組む機会を得ました。この曲のイメージというと、何故か空高く羽ばたくペガサスが思い浮かびます。難しさをはるかに超えた曲の魅力、伸びやかな旋律や変幻自在のハーモニーにとりつかれ、大好きな曲5本指(10本指?)に入る大切なレパートリーになりました。あれだけピアノの扱いに熟知しているのに、どういう訳かピアノの大きな作品がないのですね・・・残念。また、クライスラーのヴァイオリンの小品は皆さんお馴染みですが、ピアノの作品は恐らく残されていないでしょう。しかし名ヴァイオリニストだったクライスラー、実はピアノも弾いたそうで、それら小品のピアノ・パートにも「粋」が散りばめられています。

例えば今回の弾くメシアン、ピアノにもたくさんの傑作が遺されていますが、実は殆ど弾いた事がありません。武満も初めて取り組んだのは、ヴァイオリンとのデュオでした。コダーイは今回初めてですが、ピアノ曲もあるようです。アンサンブルで取り組んでみて、後にピアノ作品を弾くようになった作曲家も大分ありますが、メシアンや武満、コダーイなど、(舞台に乗せるかどうかはともかくと)機会あればぜひ弾いてみたいと思います。

話戻しまして、明日の当日券は出ますので、お時間おありでしたらぜひいらして下さい。よろしくお願い致します。

未だチラシが送られてこないのでここにアップできないのですが、11月にもトリオを含むコンサートがあります。明日が終わったら今度はそちらにシフト、まず1人できっちりさらい、来週からはびっしり合わせが入ります。オール・サン=サーンスというプログラムですが、サン=サーンスは指さばき鮮やかな曲が多いのです。寒さに向かうこの時期、筋肉がついていってくれるか少し心配な今日この頃・・・。




2006年10月26日(木)       「山の端」

9月は結構涼しかったのに10月は割に暖かく、シャツ1枚で気持ちよく過ごせる日が多いなぁと嬉しく思っていたのですが・・・ついに寒さに震えるようになってしまいました。

今月は全然更新できなくてごめんなさい。先週からフル回転、殆どまともに寝ていない日々です。前回書いたような2度寝がすっかり習慣となり、「ノンストップで寝倒したい」という願望が今も頭の隅にちらちら。このひとりごと、どんな事をどんな順番で書くか決めていたのに、それを実行するまとまった時間が全然取れなかったのです。秋に入ってからため込んでしまったさまざまな用事、1つずつ順番に片付けていったら確かに頭(心?)のモヤモヤはすっきりしたけど、何だか釈然としない(大切な事を落としている気がする)。その他、授業の節目で新しく決めなくてはならない事がたくさんあり、試験曲を決める時期とも重なり、それに関して調べたり練習したりしなくてはならない事も多いのです。もちろん自分自身の時間、録音を聴いてチェックし、音源も聴き、楽譜を開いて再度読み直し、それらを元に練習するという事、これには時間はいくらあっても足りる事はありません・・・。

富田さんのリサイタルが近くなりました(コンサート情報をご覧下さい)。前半がチェロ無伴奏とピアノとの2重奏で近現代もの、後半はシューベルトのピアノ・トリオという、彼女しか思いつかず又実行もしないだろうという、素晴らしき独創的プログラムです。このプログラムについて初めて聞かされた時は、実は目が一瞬点になりました。シューベルトのトリオ第1番は、学生時代授業でトリオを組んでいた時分に「室内楽とは何ぞや?」を徹底的に学ぶ事となった、思い出の曲です。しかし前半の曲、ルトスワフスキのザッヒャー変奏曲(無伴奏)、メシアンの世の終わりの四重奏曲より第5曲、武満徹のオリオン、コダーイのチェロ・ソナタ(あの有名な無伴奏ソナタと別に、ピアノとのソナタがあるのです)、どれも弾いた事がない・・・ルトスワフスキやコダーイに至っては存在すら知らなかった。楽譜をもらうまではちょっと恐怖さえ感じていました。ところが・・・。

やはり聴いて弾いてみるまでは分からないものです。全然知らないところに素晴らしい作品はいくらでもあるものだ、と自分の不勉強さは棚に上げて思いました。必然性のあるプログラムです。というところで今私の感想を書きたいのですが、もうそろそろ学校に行かないと遅刻する・・・(今日最初の仕事は高校生の小テストから)。リンクのページから富田さんのブログに飛んで頂けば、プログラムノートやこのリサイタルへの抱負など記載されていますので、まずはそちらをどうぞご覧下さい。充実した内容です。私の方は後日に(明日?明後日?)。

昨日レッスンしていた部屋は壁一面がガラス貼りで、冬場は温室化してめちゃくちゃ暑くなる(暖かいを通り越している)のを除けば、広い空が眺められる結構お気に入りのシチュエーション。夕暮れ時ふと外を見たら、山の端(正確には丘の端?)の少し上に細い細〜い三日月!「やまのは」。朧月夜の歌詞が頭に浮かび、日本語には素敵な響きがあると改めて思いました。月は糸のように細いのに金色に光っていて美しく、丘の稜線に並ぶ木々の梢がはっきり見えました。学生さんと話している一瞬の内に沈んでしまったのですが、「深まる秋」を実感・・・。



2006年10月15日(日)       「2周年!」

あっという間に半月が経ってしまいました。何度もいらしてくださった方へ、ごめんなさい。

お陰様でこのサイトも開設2周年を迎える事ができました。半月も空く事あれば、間を置かず更新する事もあり、本当に気まぐれで申し訳ないのですが、それでも懲りずに何度も何度もいらして下さる方がいらっしゃるお陰でここまで続けて来られました。アクセスカウンターがじわじわ増えていくのを見て、「あぁ更新しなきゃ」と何千回思った事か・・・。今後も苦しみながら(?)書き続けて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。ご感想等メールでお送り頂けましたら幸いです。

この半月、とにかく盛り沢山な日々でした。そんな中、体がくたくたですぐ寝てしまった日あり、心が疲れてどよ〜んとしていた日あり、頭が回らなくなって何もできずぼぉっとしていた日あり、日によって調子はバラバラ。とは言っても昨日、そしてその2日前は本番があり、とてもそんな事も言っていられない状況でした。

前にもどこかで書きましたが、私の場合ソロはさておき、伴奏であがる事はまずないのです。ところがこの2回の本番、伴奏だったのに結構緊張しました。どちらも私にとってはかなり特殊な状況でしたが、いやはや、ソロの方にしてみれば迷惑な話かと・・・。

私が伴奏や室内楽をいろいろしているのに影響されるのか、現在過去の教えている(いた)人は皆伴奏を好んで引き受けています。そんな学生さんに私がいつも口うるさく言っているのは、「ソロの方には決して迷惑をかけない事」。例えば、お引き受けした伴奏と自分のピアノ、両方で手一杯になってしまったら、伴奏を優先する。引き受けたからには責任をまっとうすべきで、難しくて弾けないとか自分のソロの練習時間しか取れないというのは言い訳にならず(もちろん学生だから許されるという訳ではなし)、卒業して「本業」になってもそれを通されたら・・・?伴奏をお頼みする方々にしてみれば「勘弁して」という話。こんな事情で止む無くお引き受けしたピンチヒッターは、数限りなくあります・・・。

そして私自身が心がけるようにしているのは、相手に余計な心配をかけない事。コンクール会場でかつて遭遇したのは、時間になっても伴奏者が現われず、自分の演奏の事だけでいっぱいいっぱいになっている参加者の不安を更にあおり立てているというシーン。遅刻は絶対にNGだし、つまらない心配をさせないように気配り(人それぞれの求めている事が違うのがまた難しい)できるのも、伴奏者の絶対的条件だと思うのです。私自身が今もソロを弾き続けている事で、ソロとして舞台に立つ時の怖さを実感として理解できる。おこがましい言い方になってしまうのですが、それを少しでも緩和して差し上げられるような伴奏者になれたら、というのが目標です。ま、私が心配性というのもあるのですが。

とは言っても、演奏そのものが信頼されなければ一巻の終わり。何かあった場合、ソロなら(お客様に申し訳ないのは当然だけど)、全て自分の責任という事で済みます。でもソロには非がないのに、伴奏のミスで演奏がまずくなってしまったら?相手の演奏に対して責任を持つというのは、かなり重い事なのです。だからと言って伴奏者が緊張していたら話にならない。そう思っていたからか、いつでも条件反射的に平静になれていた(平静を装えていた?)と思うのです。

久々に緊張して以上のような事を改めて考えさせられ、いい勉強になりました。3日前の本番は素晴らしい先生方のたくさん出演された中、自分の小ささをつくづく感じました。昨日の本番は緊張はしていたものの、いろいろ音楽の駆け引きもあり、楽しい瞬間もありました。やはり本番は怖いけれど、でもいいものです。

以上の文中では便宜上、あえて「伴奏」「伴奏者」という言葉を使いました。私は普段使わないのですが、これについての考えはいずれゆっくり書く事にします。

その他この半月にあった事。残念ながら全部仕事です。いつもの学校の仕事、クラスの試演会(ピアノを聴き、そして副科の学生さんの専攻楽器の伴奏も)、本番とそれに際しての合わせやゲネプロ、プライベートの方のレッスン・・・。

そんな中、1つ嬉しかった事。高校の学園祭は、毎年音楽科としてミュージカル公演を行うのですが(詳しくは2006年5月5日「リセット」をご覧下さい)、それを観てきました。全生徒共通科目のリーディング(初見)の授業も担当し、副科ピアノの試験も聴いていれば、全員の名前と顔はほぼ一致するようになります。また何らかの授業で関わった生徒さんも多く、副科でレッスンしている生徒さんが今回大きな役で出演するので、果たしてどんな公演になるのか非常に楽しみでした。過去に数回観ていてレベルの高さは知っていたけれど、それでも本当にびっくりさせられました。普段のレッスンでも授業でも見た事のない「初めて」の表情、姿。そして一人一人の個性にあふれた素晴らしい表現力。どこにこんなエネルギーが隠されていたんだろう?そしてスタッフとして働いていた生徒さんも含め、皆それぞれ精一杯の力を出して1つのものを創り上げている、という事にも感動。3年間毎年、授業と平行して進められるこの公演に向けての準備、時には授業中疲れきった顔をしていて心配したりもするのですが、若さで乗り越えられもするし、こういう経験は人生の宝物になるでしょう。今週の授業では、きっと皆「自分の居場所を見つけた!」という充実した表情をしているはず。ちょっとうらやましい・・・。

リンクに3件、私の勤めている洗足学園のサイトを追加しました。高校のサイトでは、終わったばかりのそのミュージカルが観られるようになっています(早速観てしまいました)。迫力や熱気はライヴで観るのには全然かなわないのですが、ご興味ありましたらぜひご覧下さい。来年以降も秋の学園祭で催されると思いますので、その際はライヴでどうぞ。

2度寝が習慣になりつつある今日この頃。2度寝と言っても私の場合、夜遅く帰宅したらとりあえず食事、その後疲れきってうたた寝してしまい、日付が変わった頃に再度起きだしていろいろ翌日の準備などし出すというもの。そして最近は、夜中に台所でちまちまと作業をしています。蜂蜜レモン漬けたり、紅玉とサツマイモの甘煮を作ったり、卵ゆでたり・・・「悲しいお昼ご飯」が続くと反動で何かやりたくなり、どうしてもパスタが食べたくなって作る事もあります。うたた寝する位ならそのまま寝てしまってもいい時間なのですが、早起きして翌日の準備などできない性格。やらなくてはならない事を朝出る時間まで終える自信もないので、それならいっその事一気に片付けてしまう方が、短くても安心して眠れるのです。稀に眠気に負けて「明日早起きしよう!」と決意して寝る事もあるのですが、そんな時の出掛けの凄まじさは・・・(思い出すのも嫌)。せめて時間位は多少の余裕を持とうと思うと、今もこ〜んな状況に・・・。


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