ひとりごと(2012年5月分)

2012年5月31日(木)             「時間帯」

いろいろな事があった5月も終わり。梅雨も近いです。

学校の仕事以外は極力ピアノに当てている今日この頃。あらゆる時間帯にピアノが弾けるなんて滅多にないことですが、気持ちの乗り方がいろいろ違う事に気付きました。いつの時間帯に気持ちが乗るか、敢えてそんな事を友達に尋ねた事もないのですが、皆さんはいかがでしょう?

私はさぁ練習するぞって思えても練習するまでに時間がかかるので(余程切羽詰まった時は例外)、そんな訳で朝練習する事は稀です。実際にやってみれば午前の練習って、疲れもなければ頭も明晰、お昼までに実の詰まった練習ができるはずなのですが。午後はまとまった時間が長く取れるので、ここでその日の予定ががががとはかどる事が多いです。夕飯の後は眠くなる事が多く、また時間を気にして弾いてしまうので効率は決してよくありません。日付が変わった後、授業の準備とか事務的な作業などこの時間帯が断然集中できます。しかしピアノの場合は体力勝負なので、やるとしたら短い時間で今やっておかねばならない事に絞った練習のみ。

という訳で練習がはかどるのは午後から夜にかけて。時計の短い針しか動いていないように見えて焦る事もありますが、時間を気にせず集中できるのはありがたい事です。さっきまで日がさしていたのにいつしか暗くなってきた〜と思う夕暮れどき、電気もつけず弾けるこの時間がお気に入り。そう言えば子供の頃、真っ暗闇で月光ソナタの1楽章を弾くのが好きだったなぁと思い出しました・・・。




2012年5月28日(月)             「結局」

リサイタルまであと2週間を切りました・・・。

2週間という期間が長いのか短いのかよくわからぬまま過ごす毎日。いつもなら「あと2週間もある!」と思えるのに、何故か今回は「2週間しかないっ」と思ってしまいます。大体1カ月以上前から「あと1カ月しかない」という焦りがありました。練習のペース、仕上がってゆくペースが読めない事に何か振り回されている感じ。

ちょうど当日お配りするプログラムの校正をしていましたが、ふと思った事。バッハは平均律2巻を書いていた当時、教会での仕事に多忙を極めていました。教会音楽を作曲、また演奏、指導にも携わっていたはずですが、今よりずっとずっと不便な時代です。電気がひかれていない時代、夜にランプ(?)の元で作曲するのは大変だったと思うし、今みたいに何でも便利にできてしまうのと違って全ての事に時間がかかったはず。そんな中でこれほどの傑作を次から次へと書けたとは、本当に信じられない思いです。それに比べたら自分は何やっているんだろう・・・。

この時期いつも思うのは、結局は精神力と集中力だという事。何にも負けない強い気持ち、そして必要な時にぱっと集中できる事。もちろん練習出来ている上の話で、最終的にはそこに行き着くものです。我に帰ってそこに気付けるとほんの少しだけ楽になるのですが、あっぷあっぷしていたり途方にくれていたり・・・。今回は例年の何十倍もそうなっています。

今日はとあるホールをお借りして練習してきます。「こんなに出来ていない」という事に気付き、そして「こんな事もあんな事もできる」という事にも気付ける貴重な時間です。

東京スカイツリーもついに開業しました!しかしいつ昇れるのだろう、当分先かな・・・。




2012年5月22日(火)             「金環食」

ついに見られました、昨日の金環食!まさかこの目で見られるとは思っていなかったので、何か実感がありません。普通なら「感激した」とかいうところなのでしょうが・・・。

金環食(今は金環日食とも言われますが、昔ながらの馴染みがある金環食でいきます)が今年見られる事を知ったのは、1月だったか2月だったか。都内某量販店に寄った時、日食グラスなるものがどぉんと積まれているのが目に入りました。その時はまだ日食が起こる事はそんなに騒がれていなかったはずで(でも試験期間でいっぱいいっぱいで気付かなかっただけ?)、「え?金環食?聞いてないっ!」と半信半疑、でも本当にそうなら必要かと思って購入しました。金環食という言葉をよく耳にするようになったのは春になってから。それでも信じられない思いでこの日を待っていました。

子供の頃に見た天文の図鑑での印象、かなり強く残っています。皆既食と金環食の写真が出ていたのですが、真っ黒なバックに太陽が浮かび上がって映っているもので、日食の時は周りは真っ暗になるような気がしていました。確かに写真にするとそうならざるを得ないのですが。そして「今後見られる日食」という地図が出ていて、それは世界地図に皆既食や金環食の見られる帯状の地域が彩られているものでした。しかしそのラインは日本の上を通っていなくて、こんなに日食は稀にしか起こらないものなのかと。そしてきっと生涯それを見る事はかなわないだろうと。そんな訳で「東京で見られる?そんな馬鹿な?」位に思っていたのです。

という訳で期待していたのですが、数日前から天気予報で「当日は曇り、日食を見られる可能性は低い」と言われるようになり、しょぼんとしました。でも自然現象だから致し方ない、やっぱりそれ位簡単には見られないものなのかと諦めもついたのが前日。と思いつつ、わずかに可能性は残されているのではないかと夜明け頃空を見たら・・・?なんと晴れている!いゃいゃまだ喜ぶのは早い。7時前に見てみたらやっぱり日が射している。どうにかお天気持ちこたえてくれぇ・・・。

前日まん丸な太陽で試し見をした日食グラスで覗くと、三日月ならぬ六日月?くらいのバナナ型の太陽が見えました。ちょっと覗いては外し、を繰り返していると夕暮れのような明るさに。いつしか糸のように細い太陽となっていました。そして金環食になった瞬間、ぱっと太陽の周囲が輝き、コロナが見えたような気がしたのです。奇跡的にもその時まで殆ど問題なく見え、まん丸なリングになってからは時折薄い雲に隠されながらも、どうにか見続ける事ができました。

思っていたより太陽は小さい、なんて思いましたが、でも美しかったし、何よりもこういう奇跡のような瞬間に立ち会えている事に感謝したくなりました。結局昨日は夕方までずっと日が射していましたが、神様も粋なはからいをして下さるものです・・・。



2012年5月15日(火)             「27時間」

あらよっという間に5月もちょうど真ん中。来週は早々に金環食、翌日から東京スカイツリーが開業!

・・・という事で一緒に浮かれ気分になりたいのですが、そうもいかない今日この頃。連休は例年の如くご案内状書きと曲目解説、その他もろもろ事務作業に追われ、頭の中は言葉でいっぱいでした。やっとやっと終わってほぼ音楽だけに集中できる態勢に入ったのは連休後、常に何かしら頭の中で音が鳴り続くようになった今から本番まで、スパートします。

しかし本当に今年は練習が大変です。軽く見積もってもプレリュードとフーガ1曲で練習が1時間、24曲で24時間、プラス全曲通すので3時間(実際は2時間強?)、毎日1日27時間ないと足りない・・・なんて冗談にもならないほど。1曲1曲の内容が深く、構造も手が込んでいて、ただ弾けるようにする、暗譜するだけでなく、あれもこれもと試していたら時間がいくらあっても足りない。1巻より作曲年代が約20年も遅く、またクラヴィーアの為に書かれた作曲者最後の作品とあらば、曲の充実度が全く違います。各曲の長さも2巻の方が少し長い。1巻の方も好きだし、あちらはあちらでのフレッシュな魅力があるのですが。あ、もちろんフレッシュな魅力と言っても、何て言ったって大バッハの事ですから、1巻の方も傑作である事には変わりはないのです。

先週は主に曲の「謎解き」、つまり曲の構造について考えていたのですが、いやはや本当に驚かされました。作曲の専門的な事まではわからないのですが、よく考えられた上でひとつひとつの音が積み重ねられていて、しかしそれがいかにも考えて作りましたという風ではなく、自然な美しさを保っています。あれだけ手の込んだ(複雑、という言い方はしたくない)作品が、そうであることが当たり前のように自然に、そして芸術的に書かれている事そのものが、本当にすごい事だとつくづく思います。

何の世界でもきっと同じだと思うのですが、いかにも何でもなさそうに、でも「美しく」見えるもの、そういうものがきっと本物なのではないかと。いかにも大変そうとか難しそうと思わせてしまったら失敗ではないかと。そんな事をよく考えます。

また、バッハの平均律のような超一流の作品は、どんな風に接しても愉しめるという風にも言えると思います。聴く愉しみもありますが、この曲どんな風になっているんだろう?とちょこちょこっと鍵盤と戯れてもそれはそれできっと愉しい。本気で取り組んだら取り組んだでいろいろみえてくるし、たくさんの可能性がある事がわかり、どの弾き方を選ぶかを考えるのも愉しい。やっぱり無人島に持って行く物リストには、(例えピアノが無人島になくても)平均律の楽譜2冊は絶対に入れるだろうなと思いながら、でも4週間後に本番だ・・・と気を引き締めながらさらっています。

さて。1日27時間も弾けないのでどんな風に練習するかを考える事が、練習前にする大事な問題です。間に合うかどうかを心配してあたふたしているだけでは意味がないので、とりあえず24曲を4段階に分けました。すなわち、1・遠い昔に何らかの課題曲としてかなり弾きこんだ記憶のあるもの、2・そこそこに覚えているけれどまだ不確実なもの、3・断片的に記憶が残っているものや覚えているけれど弾く事が難しいもの、4・何故かあまり思い出せない位記憶が薄れているもの、という具合。

やはり弾いた期間(総時間ではなく)が最終的にはモノを言うので、4の記憶の薄れているものから取りかかります。これは記憶を取り戻す為に集中的に毎日。と言っても1曲ごとに時間がかかるので、このグループの曲全てを毎日さらいこむ訳にも行かず、様子をみながらローテーションで。本当は3の弾くのが難しいものなども「期間」をかけて取りかかりたいのですが、4のグループの負担が減ってきたら、他のグループも組み合わせてゆく方法をとるしかないかと現段階では考えています。

それと別に、全曲通した時のイメージも暗譜が済んでからするのでは間に合わないし、(通常の80分プログラムならともかく)これは長いのでそうそう通すわけにもいかないでしょう。という事で、まだ暗譜が済んでいない今の内から、譜面を見ながら全曲通すという事もたまにしています。いろいろな音源を聴くとか、自分の弾いたのを録って聴く事もしたいのですが、時間が限られているのでどうなるか・・・。でも時間がないからと言って、ざぁっと手を抜いた雑な練習をする事はあり得ません。こんなすごい作品に出会えてこんなに面白い時間を過ごせているのに、そんなもったいない時間の使い方は無いと思うし、こんな素晴らしい作品を遺してくれたバッハに失礼。考えていても仕方ないので、ただただ行動に移すのみ・・・。

1日中弾いていると昨日だか今日だかわからなくなるほど、時間の経ち方が早いっ。気持ちを切り替えて、今日は学校です。さわやかな季節がやってきましたが、今日はどうやら雨らしい・・・。


 過去のひとりごとへ
 ホームへ

ピアニスト 石田多紀乃 オフィシャル・サイト
http://takinoishida.com
メールアドレス mail@takinoishida.com
本サイトの内容の無断転載・複製は固くお断り致します。
Copyright (c) 2004-2016 Takino Ishida
All Rights reserved.