ひとりごと(2008年2月分)

2008年2月29日(金)         「お勧め」

日暮れもいつしか遅くなり、日差しもこんなに強くなりました。沈丁花が咲くのももうすぐ・・・。

昔の生徒さんからのお尋ね。友人にプレゼントするので、クラシックのお勧めのCDが何かありましたら・・・との事でした。しかし、そのお答えメールを書くのが何とまぁ難しい事。

ちょっとしたプレゼントを何か・・・というシチュエーションで、クラシックを普段お聴きにならない方にCDをお持ちする事はよくあります。自分でさえどれにするか売り場で迷う位だから、普段あまりお聴きにならない方だったら尚更迷われるような気がします。「実際お店に行ってもどう探したらいいか分からなくて」と友人から言われたのが、そもそもの始まりでした。

奥の深いものや選択肢の広いものは、詳しい方にお尋ねするに限ると思うのです。例えばワイン。お祝い事などでよくお贈りするのですが、親しい友人だったら好みを分かっているので、その範囲内であえて珍しいものをお店の方に探して頂きます。他には、その方がかつて住んでいらしたり旅行される事の多い国のものとか、お好みがわからない場合は飲みやすいものとか・・・。同様にお花をお贈りする時も、用途はもちろん、その方のお好きな色や雰囲気をお伝えするのですが、自分では想像できないような組み合わせの花束が出来上がってきて、ハッとさせられたりします。

話を戻しますが、プレゼント用のCDを探す時に問題になるのは、売り場にいってみないと全く分からないところ。というのは、「自分の持っているあのCDと同じもの」と思っていても店頭にあるかどうかはわからず(注文したら再度お店に、でも間に合うかどうかも分からず)、また既に廃盤になってしまった可能性もあります。そして組み合わせてある曲の問題。例えばBGMとして静かな雰囲気の場所で流してもらえるようなCDをセレクトと思っても、収録曲全てがそれにふさわしい美しい静かな曲ばかりでなく、激しい曲も混ざっている可能性があるので。もう一つ、ターゲットの曲を決めてもいろいろな演奏家のCDがあり、その中でどれがよいかは実際聴いた事がないと自信をもってお勧めできないと言う事。

そういう状況でお店に行く時は、かなり長い時間売り場をぐるぐるします。究極の1枚だったらあぁでもなくこうでもなくと悩み抜き、2枚だったら更にどういう組み合わせにしよう?作曲家は?編成は?なんて具合です。・・・という訳で、お尋ねの方にはお勧め曲のみ、幾つかお知らせしました。とはいっても疎いジャンルもあるので、そんなに偉そうにお勧めできる立場でもないのです。

ふと思ったけれど、「何かクラシックのお勧めのCDを買いたいんだけど」というお客様に、その日の気分や好みの曲のタイプなどをお尋ねし、その中で最もぴったりとくる曲、ついでに演奏家まで選んでさしあげるアドバイザーが売り場に存在したら、もっとクラシックのCDも買い易くなったりして・・・。

実際学校の図書館でも、「同じ曲でたくさんCDがあるけれどどれを聴くべきですか?」とか、「この作曲家についていい文献ありますか?」とか尋ねられ、その棚まで学生さんを連れて行ったり、また「この中で好きな曲をいくつか選んで次回までに弾いていらっしゃい」と一緒に譜を探したり・・・時間がある時に限られますが。

そういえば1、2月のレッスンでも同様の事で、かなり頭を悩ませました。今年度の学校でのレッスンは無事に全て終わりましたが、試験前の追い込み時、最後のレッスンまでに春休み中の宿題を人数分考えていくという難題が待っているのです。当人に任せてしまうという手もあるかもしれないけれど、先の理由で私はお勧めをいろいろ考えるクチ。特に副科の学生さん、在学中の短い期間にできるだけたくさんの作曲家の名曲に出会ってほしいし、その間にどんどん弾けるようになっていってほしいので。まずは何か弾きたい曲があるか尋ねますが、今がチャンスと言わんばかりに曲名が挙がる事は稀。となると、「明るい曲か暗い曲?」、「速い曲か遅い曲?」、「長い曲か短い曲?」、「何時代の曲?」とか、質問攻めにして探りを入れます。すると「3拍子系が続いたから今度は2拍子系で」とか、「現代っぽい響きの楽しい曲」とか、「今まで一度も弾いた事のない作曲家の曲」とか、少しずつ意見が飛び出してきます。それらを参考に過去に弾いた曲と照らし合わせて選ぶのですが、ピアノ曲ってこんなにあるはずなのに選曲は意外に難しいなぁと、毎回つくづく思うのです。「ピアノ弾くのも楽しい」と思ってもらいたい一念で探しているので、決して苦ではないけれど。

2月29日って4年に1度きり。今日という1日は不思議な時間・・・。



2008年2月26日(火)         「3拍子」

春一番の後は冬の嵐。風の強さもさることながら、この音は苦手です。もうすぐ3月、いつになったら春らしくなるの?と思いきや何か異変が・・・。先週は大変な目にあいました。花粉です。

ずっと大丈夫と信じていたのに、ここ2年位少しずつ症状が出始めていたのです。嫌な予感はしていましたが、今年は先週暖かくなった途端に「お出まし」。目が痒くなり、まぶたが真っ赤、ひどい時は喉も腫れ、鼻がじくじく・・・。シーズン早々こうだと、あと2ヶ月くらい我慢しなければ駄目かと憂鬱になります。ただでさえ春は光がまぶしくて目が開けられず、埃っぽくて目にゴミが入って日に何度もレンズを外して洗い、何かと災難な季節なのです。

学校の方は落ち着いてきて、今となれば「あの生活は一体何だったんだろう?」と思えます。あのペースのまま今もしゃかりきに頑張れれば、さぞかし練習もはかどると思うのですが、体に正直になったら疲れている時や寒い時はさすがに動きたくなくなるものです。不思議なもので、追われている時の方が断然出来るようで、普段はいかに瞬発力に頼っているかを実感。花粉症の事もあるし、せめて春休みは体をいたわろうかと思うのですが、3月末までにやってしまいたい事がたくさんあるのです。練習然り、リサイタルのご案内状書き然り・・・。

試験シーズン中はお休みしていた家でのレッスンも、ちょこちょこしています(皆音大を卒業した人なので間が空いても心配ないのですが)。気付いたのですが、テンポゆっくり、3拍子の変奏曲を弾いている人ばかり(もちろん別々の曲)。3拍子は特別で、上手に音楽の流れに乗れるかどうかは理屈のみならず、体の感覚やセンスも必要とされる気がします。

昔は私も3拍子は苦手でした。そのノリがつかめなかった時分、いろいろ試行錯誤していた事を思い出します。最初にその感覚が掴めた時の事は良く覚えています。高校の卒業試験で弾いたシューベルトのさすらい人幻想曲。あの3楽章に出てくるテンポの速い舞曲のリズム。ここで音符を書いてそのリズムを説明できないのが残念ですが、3拍子は回る拍子だと実感できたら後は早い。ゆっくりの3拍子のコツがつかめたのは大学生の頃、シューマンのクライスレリアーナを弾いていた時。あの2曲目の8分音符の並びに手こずっていましたが、ある外国からいらしたピアニストのレッスンを受ける機会があり、その後にいろいろ考えました。音楽がどこに向かうか、メロディをオクターブでなく単音で弾いてみたらどういう歌い方をするか、どういうフレーズ構造でできているか、そのハーモニーに合わせてどういう音色を配置するか、それらと拍子を考え合わせたら弾きながらどういう呼吸をするか、そんな事をいろいろ試していたら「あ、これだ!」と分かった瞬間があったのです。ゆっくりの3拍子は他にも、ベートーヴェンのソナタ作品109の3楽章とかバッハの組曲楽章のサラバンドとか、弾きながらいろいろ見えてきた事を思い出します。

一言でいってしまえば「とにかく3拍目は1拍目に進む」、これに尽きる。かつて先生方からよく言って頂いた事でした。今まで私を育てて下さった先生方は、とても大事で当たり前の事でもある「音楽でのルール」みたいなものについてとても厳しく教えて下さいました。思いつくままに挙げてみても、「曲を弾きだす前に頭の中でメロディを歌ってテンポをきちんと決める」、「アウフタクトで始まる曲の1拍目を分かりやすく」、「小節線を越える時は自然に」、「フレーズの終わりまで気を抜かず丁寧に」、「フレーズやハーモニーなど考えたら、どういう歌い方ができるかが決まる(むやみやたらとテンポ・ルバートはできないという事)」、「フレーズはちまちまと切らずに大きく、音楽は先へ先へと進ませて」、「カデンツ(終止形)を意識して」などなど。専門的な勉強を始めた小学校高学年、中学生の頃に特に言われた事です。

ひらがなばかりで書かれた文章、この中で必要なところは漢字に直し、点と丸を入れて意味が通るようにする。そして意味が分かったらどう読むか。強調する言葉はどれにするか、どんな抑揚をつけるか、それで表現が変わってきてしまいます。これを言葉でなく、音楽で同様に考えているようなもの。それまでは勝手気ままな弾き方をしていたので当初は面食らいましたが、これは室内楽や伴奏をする時に絶対に必要な事で、今となってはそれを最初に教えて下さった事に本当に感謝しています。

話が反れましたが、今は3拍子の曲は大好きで、当然舞曲にはとても惹かれています。最近はあまり考えなくなりましたが、一時期アンコールには必ず3拍子の曲を入れようと仕組んでいた位。そういえばゴールトベルク変奏曲(のアリア)、あれもテンポゆっくりの3拍子でした・・・。



2008年2月18日(月)         「多彩な音」

またもやご無沙汰しております。

先々週はたくさんの試験の伴奏があり、ピアノの試験を聴き、大学院の首席の学生さん達のコンサートも聴き、そんな中でマスターズ・コンサートの合わせと本番もありました。そこで大学は全て終わったものの、先週は高校の授業とレッスン、そして実技試験はピアノを聴き、伴奏もし、今週は副科ピアノの発表会です。というように心配なものが1つずつ済んでゆき、少し気が楽になりました。でも音楽教科の授業は3月頭まで続きます・・・。

マスターズ・コンサートもお陰様で無事終わりました。あの大きなホールにあんなにたくさんのお客様がいらして下さるとは予想もしていなかったので、嬉しい驚きでした。ありがとうございます。今回のようなコンサート、滅多に演奏の機会のないかなり変わった編成で、それもまた移動しにくい大きな楽器ばかり(打楽器に電子オルガンにピアノ・・・)、おまけに先生方皆さんお忙しいときているので、正に学内だからこそできた企画。合わせは曲ごとに日が違うと前に書きましたが、レッスンや試験の審査が終わったら夜な夜な(?)合わせ、という具合でした。それにバランスが決め手になりそうなものばかりなので、無理を承知でお願いし、当日以外にも少しリハーサル室やホールで練習させて頂きました。スタッフの皆さんのご好意ときめ細かいお仕事には本当に助けられました。心よりありがたく思っております。

打楽器との共演でいつもと違ったのは、ピアノの弾き方そのものでした。「ピアノは所詮打楽器なので」とはよく授業やレッスンで言うのですが、それはつまり打楽器的な発音機能を踏まえた上で、いろいろな音色を作り出す為に工夫しなければならないという意味。今回は全く逆で、いかに打楽器っぽく弾くかに苦労しました。まず普通に弾いていたのでは音量で明らかに負けるし、「押して」弾いていたら指が持ちません。腕の重さも利用しつつスピード打鍵で行きましたが、実際普段の演奏で使わない筋肉をかなり使ったので前腕はパンパンに張り、指先はぱしぱしと割れてきます。2台ピアノのように同種の楽器で合わせる大変さとはまた違うのですが、やはり打楽器同士、点と点として合わせたい。テンポが速くリズミカルな曲なのでずれ始めたら怖いし、尚更格好悪いのです。という訳でお互いの音がどれ位きちんと聴こえるかが全てで、場所決めはいつも以上に大変でした(でも決まってしまえばこっちのもの)。

今回は私自身とても楽しめたコンサートとなりました。何もかも一人で背負わなければならないピアノのソロでない限り、「誰かと一緒」というだけで楽しいものです。リズミカルな曲が多く、また電子オルガンや打楽器はさまざまな音色を駆使でき、曲のバラエティに富んでいたのではないかと思います。楽器固有の音以上に、先生方皆さんの作られる音が美しかったりはじけていたり何かを語っていたり・・・その音を耳が楽しんでいました。まさにタイトル通り、「多彩な音のコラボレーション」だなぁと他人事のように思いました。そして私たちはモニターでしか確認できませんでしたが、照明もとても凝って下さっていたようです。出来れば客席で聴きたかった〜。そして機会があれば再演したいとしみじみ思いました。それ位、舞台の上が一番楽しかった気がします。

今回私はお声をかけて頂いた立場ですが、チャンスを頂けて本当に嬉しかったです。学生さんにいつも話すのですが、誰かと一緒に演奏できるというのは自分の意思で出来る事ではなく、縁あっての事。だって望んでいてもスケジュールが合わないとか、さまざまな要因に邪魔される事が多いし、例えばピアノだったらピアニストはいくらでもいるから、たまたま自分にお声がかかったのは何かの巡り合わせ。その出会い、その偶然(必然?)に感謝しなくては・・・。今回も打楽器、電子オルガンと今までなかなかご縁のなかった楽器に出会えて、また世界が大きく広がりました。そして他の楽器とそれを演奏される方々に私自身大きくして頂いていると、つくづく実感します・・・。

今日発行のぶらあぼ(クラシック音楽情報フリーマガジン)の3月号、CDに関するインタビューで載せて頂けました。「WEBぶらあぼ」のサイトでもご覧頂けます。1時間以上かけてのインタビューで、この口の重い私から話を上手に引き出して下さり、面白くしゃべらせて頂けました。自分自身しゃべりながら再認識したり・・・という過程を楽しんでいた、という意味です。改めて、「自分はこんな風に音楽にアプローチしているのか」と、「やっぱり変わっているかも?」と思いましたが。それはともかくと、ご覧頂けましたら嬉しく思います。

「コンサート情報」のページに詳細は掲載しましたが、3月22日に渋谷のタワーレコードでCD発売記念のイン・ストア・コンサートをさせて頂く事が決まりました。普通のコンサートと違って正直ちょっと照れ臭いのでやりにくいのですが・・・お時間おありでしたら、ぜひふらっとお立ち寄り下さい。よろしくお願い致します。

今年はいつになっても暖かくならないので憂鬱。でも自然は着実に春に向かって動き出しています・・・。




2008年2月3日(日)          「制限時間」

今朝は窓を開けたら一面が銀世界、音も吸われて実に静かでした。

今年の始動からちょうど1ヶ月、集中力も体力も果たして保てるか・・・というところですが、一番大変なのが今週。明日は試験の伴奏が7名。ピークを過ぎても来週からは高校生の実技試験等始まるので、今月いっぱいまだまだ気は抜けないのです・・・。

今試験シーズンは伴奏トータル20名弱、その中で重なったのはわずか2曲というのも不思議ですが、やっとレパートリーが整ってきて新たな譜読みをしなくてよかったのはラッキーでした(その代わりマスターズ・コンサートの方を譜読み)。ただ思わぬところで気を遣う羽目になったのが、曲のカット。試験の制限時間によってその中に何とかおさめられるようカットをするのですが、とある曲は3者3様、皆違ったカットを考えてきました。もちろん私の頭の中に入っているのはノーカット・ヴァージョン。本番という非日常で3者3様のカットで弾けるように(無意識で手が動く位になっているので)、楽譜上に飛ぶところと復活するところそれぞれに黄色い付箋紙を貼り、「ここでめくる」とか「誰それ」とか練習番号など、大きくメモってあります。自分でめくれる曲ならいいのですが、譜めくリストをお願いする場合は前もって説明させて頂き・・・。

そう、意外に気を遣うのが楽譜関連なのです。誰に言ったか言わなかったか忘れてしまうので、ある時期に一括して全員の曲の譜を点検します。カットがあるかないか確認してから、上記のように楽譜上に書き込みをし、譜めくりをお願いするか自分でめくるか決定して、どちらにしても学生さんに忘れず伝える。譜めくりを引き受けて下さった学生さんが気を遣って下さって、合わせの折にわざわざ来て下さるのには感謝です。だってそれ位責任のある大変なお仕事ですから・・・いつも本当にありがとう。

学内の試験等ならまだしも学外の場合、確かに譜めくリストをわざわざお呼びするのが大変というのは分かります(コンクールなど、譜めくりは自分で手配すべしと要項に書いてあります)。演奏会とかはっきり時間が決まっていて、且つ長時間だと、逆にお願いしやすかったりするのですが。

つい先頃とあるコンクールの伴奏に行きましたら、出番の直前、私の次に弾くピアニストに「譜めくりお願いできませんか?」と頼まれました。「え?」と思ったもののすぐ私も弾かねばならなかったので、どんな楽譜かも確認できず、その方の出番直前に「普通にめくればいいんですよね?」と念押ししました。そのつもりで舞台に出て行ったら、びっくりするような順番で製本されていて、初めての曲だったしテンポも速い曲で「*R3#\v・・・?」という感じ(機転を利かせました、もちろん)。私はその日の為に、自分でめくれない箇所を暗譜したのに〜。

ま、それはともかくと、原曲をカットするのは実に忍びないのですが、制限時間がある限り避けては通れない問題かと思います。弦の伴奏助手時代もよくやりました。古典派やロマン派のコンチェルトは曲それぞれ、誰もがカットする場所が決まっていて、逆にそのヴァージョンに慣れてしまっていました。自分自身の学生時代を思い起こしてみると、ピアノの場合はレパートリーがたくさんあるためか、カットはまずしないで時間に合わせた選曲を皆していたような気がします(先生方のご意向だと思いますが)。通常の試験の10分だとこれ、15分だとこれが弾けて、20分だとあれ、30分だと・・・35分なら余裕・・・みたいな。時間数と曲目がついつながって出てきてしまうのは、その時の影響・・・?弾きたい曲が微妙にはみ出してしまうので、泣く泣く諦めた経験もあります。

遅まきながらディスコグラフィーのページ、アップしました。そしてやっと今日、自分のCDを聴く事ができました(雪のおかげ?)。

今日は節分、明日から暦の上では春ですが、雪の上に豆を撒くのは初めての経験です・・・。


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